ホーム > クリエイトの眼 > 第5回 「優秀さの特性をコンビネーションで合わせ持つこと。それが驚くようなサービスを提供することにつながる。」

クリエイトの眼

第5回 プロジェクトセンター システム3室 室長 三輪 竜太郎

プロジェクトセンター
システム3室 室長
三輪 竜太郎
エンジンやメーターのソフトウェア開発者として最前線で活躍。現在、自動車関連の組み込み系ソフトウェア開発リーダーの統括とマネージメント業務を担当。難度の高い最先端の製品開発にチャレンジしています。

子どものころから「新製品」への想いは人一倍強くて、たとえば、広告やCMでこれまでにない新しいものを見ると、ものすごくカッコよくて進化を感じて・・・。  そういうモノの進化が続いていけば、きっとSFで描かれる未来の姿へつながっていく、そんな感じで、とにかくワクワクして見てましたね。  家は裕福というわけではなかったので、自分が新製品を使うことはほとんどなかったんですが、今でいう、「家電オタク」だったのかもしれません(笑)。  とにかく、家電製品が発売されると、電器屋さんに行って展示品を触っていじり回し、時には質問してみるなんてことをずっとやってましたね。  今思うと、きっと店員に「ひやかしがまた来たな」といやな顔をされてたんでしょうね。
特にAudio製品が好きだったので、カタログを集めてましたが、そこにはこれまでになかった技術がいっぱい詰まってて。  新しい技術がいかに優れているか、いかに使いやすいか、誇らしげなコピーとともに絵やグラフで説明されていて、逆に「いったい、これまでの製品って、なんだったんだ」と思えるほど、インパクトがありましたね。  そのワクワク感、世の中にない技術を使って、新製品を開発し、世の中の人が幸せになったら、どんなに楽しいだろうか。  そんな想いから、いつかは自分も新製品を開発してみたいと強く願ったものでした。

デンソークリエイトに入社する前は、機器メーカに勤めていました。  そのメーカは熱源をコントロールする民生品を開発していましたので、特に「安全性へのこだわり」についてたたき込まれたんです。設計の基本になっているのは、フェールセーフの考え方ですね。  誤作動や故障がない製品というのは高い信頼性を持った製品ということがいえますが、人が使うことを考えると忘れてはならないことがあります。  それは、「安全に使うことができる」ということです。  専門的には「機能安全を満たす」ということなのですが、たとえば、ポットの給湯スイッチが壊れても、熱湯が吹き出すようでは、安全な製品とはいえませんよね。  ソフトウエアを設計する上で、機能安全をどのように考えていくべきであるかを、開発を積み重ね、いろんな人の意見をいただいたことで、学ぶことができたと思っています。

一般的にソフトウエアは、「こういう機能があれば機能安全になる」といった明確なものはありません。  ですので、ソフトウエアの開発手法やプロセス、分析手法において論理的に安全性を導きだす方法がひとつの解ですね。  今開発している自動車向けの製品においても同じ考え方ですので、その時の経験が多く役立っています。

「高い技術力を注ぎ込み、世界初の製品化へ」

2008年に発売されたクラウンハイブリッドの開発では、車に搭載するメータパネルの電子ユニットを設計開発しました。  その製品は、「世界初のフルTFT液晶メータ」として評価されたものです。  大きな液晶ディスプレイひとつの中に、アナログの指針や車載コンピュータ情報、それらを配置する全体のパネル部材など、すべてのインストルメントパネル要素を表示させることができるんです。  これはかなり革新的なことで、ユーザーへ提供するいろんなサービスをシーンによって変化させるなんてこともできます。  この製品がいろいろな車に搭載されていけば、今までより格段に便利で見やすいメータにできるので、将来の可能性がどんどん広がっていきますね。

この製品は先進的なものだけに、開発においてはいろいろな苦労があったのです。  デンソークリエイトの強みはエンベデットシステムなので、昔から組み込み用のデバイスに関する設計技術は優れた技術があって。  でも、組み込み用のグラフィックス技術については、経験が少なくて、3D表現で高速動作させる技術を新たに開拓する必要があったんですよ。  開発に当たって、まずは、基本を押さえるため、グラフィックの一般的な基礎をきちんと勉強し直すことから始めました。  開発メンバーみんなで勉強会を組んで、お互いに強みのあるセクションを解説して進めていったんです。  そしたら驚くことに、たった半年で、CG検定のエキスパートレベルに全員合格してしまいました! 忙しいなかでも、変化に対応できる力があるものだと、みんなの可能性を感じられましたね。

設計に入ると、最先端のグラフィックプロセッサの性能を引出し、製品化へ向けた多くの技術課題をクリアしていく必要があったんです。

例えば、インストルメントパネル全体をTFT液晶パネル上で表現するために、グラフィックの品質は、実物と遜色のない質感と動きが要求され、プラスして「現実では表現できないCGならではの表現」といったものが求められました。  バーチャルな空間に躍動する命を吹き込むようにね(笑)  そのためには「スムーズに残像なく」という課題があって、それを実現するには、最新の組み込み用のCPUやGPU、メモリを使っても非常に難しく、CG特有のソフトウエアの最適な組み立てが必要なのです。  意外に思うかもしれませんが、エンジニアリングって、美しい表現や動きの部分だけじゃなくて、実は、なにげない部分にたいへんな苦労をしてることが多いんです。  ドアを開け、イグニッションキーを回す・・・、するとおもむろに、メータパネルに車のシルエットが浮かび上がる・・・。  そんな小さなシーンにも、内部は忙しく、CPUのスリープ解除から、システムイニシャライズ、アニメーションデータのDMAロードと解凍、アプリケーション描画開始・・・。  なんてシーケンスがマイクロオーダーで走っていきます。  すべての動作全体を一瞬で終わらせないと、雰囲気がこわれてしまう。  まるで静かな水面にたたずむ白鳥が優雅に見えても、実は水の中では懸命に水を掻いている・・・。  そんな世界なんです。 ソフトウエアを組み込み用のハードウエアとバランスよく調停しながら実現していくって、本当に難しいんです。

「ユーザが驚くサービスを提供する原動力とは」

わたしたちが開発しているのはソフトウエアです。  ソフトウエアってなんだろうと考えると、形としては物理的な形はなくて無形なものですよね。  そのソフトウエアは、搭載される機器を介してユーザーへサービスを提供することが本質なんじゃないかと。  つまりソフトウエアの本当の目的は、その製品とそれを取り巻く社会がどのように受け入れ、使用した人々が幸せになれるかということだと思うんですね。

これまでに、多くの製品を開発してきて、成功してきたプロジェクトは、いろいろな人の考えを入れて、練り上げ、時には一からやり直しを繰り返して作り上げた製品なんです。  すべての開発工程においては、もちろん、ロジカルシンキングがベースになるんですが、それだけではだめですね。  人と違う発想ができ、企画に強い人や、機能安全の考え方ができる人、また、モノのつくり込みが得意でQCD成果をだすことのできる人や、ネットワークを持っており各方面でうまくいく調整のできる人。  失敗したプロジェクトでは、何かが足りなかったんでしょうね。  一人ひとりの優秀さの特性を引出し、組み合わせていくことで、さまざまな問題や課題を乗り越えていくことができるんです。  だからこそ、いろんな優秀さを持った人が必要だと日々感じています。

プロフェッショナルでありつづけたい。  それは、ある分野において専門的な知識や技術を有していることだけではだめで、「そのことに対して厳しい姿勢で臨み、かつ、第三者がそれを認める行為を実行する」ことが重要じゃないかと。  それを常に自分自身に問いつづけ、未来への可能性を見いだしていきたいですね。